雪が降る街。

8/10
前へ
/24ページ
次へ
「怜~。待ってよ~。」 「美雪は遅いなぁ。早く帰らないと晩ご飯なくなっちゃうぞ。」     怜は夢を見ている。 子供の頃の…この街に住んでいた頃の夢。     「怜のいじわる~。待ってよ~。あっ…。」     短い声とともに、美雪の足音が聞こえなくなった。     「美雪?」     怜が振り返ると美雪は雪道に前のめりに突っ伏している。     「…なにやってるんだよ…。」 「うぅ…だって…だって…痛いよ~。」     怜は美雪に駆け寄り、手を差し延べた。     「ほら…とりあえず立たないともっと濡れちゃうよ?」 「うぅ…晩ご飯…。」 「もういいから…もしなくなってたら僕が作ってやるよ。」 「…ホントに?」 「なくなってたらね。何が食べたい?」 「えっと…えっと…松茸の土瓶蒸し!」 「……もっと子供らしいものにしようよ。」 「残念。じゃあ…バニラアイス!」 「今、ものすごく冬だぞ。」 「でも、あたしバニラ好きだもん!」 「分かったよ。おばさんに聞いてからやってみようよ。」     「ん…夢か…昔の…?」     怜は体を起こしながら夢を思い返していた。     「美雪がポニーテールだったから、間違いなくあの頃の夢だな。」     少し頭を振って、また横になろうとした瞬間…。     「ジャーン。おはよ~。もう朝だよ~。」 「なっ、美雪か!?」 「ジャーン。おはよ~。もう朝だよ~。」 「…………。」     枕元から美雪の声がする。 声を吹き込むタイプの目覚まし時計らしい。     「これか…。」 「ジャーン。おは。」     怜は時計を睨み付けながら目覚ましを止めた。 昨夜、怜は寝る前に美雪に目覚まし時計を借りていた。     「一番のオススメだよ。」     ニッコリ笑って差し出してきたのがこの時計なのだが…。     「朝からこれは…さすがに心臓に悪いだろ。」     すっかり目が覚めてしまったので、仕方なくベッドを出ることにした。 部屋を出て階段を降りようとしたその時…。     ジリリリガショーンリーン朝だぞ朝だぞキューンキューン     「今度はなんだ!?」     音が聞こえる方を見ると、美雪の部屋のようだった。     「美雪、開けるぞ…うわ。」     開けた瞬間、部屋の中からけたたましい音が飛び出してきた。 そんな中、美雪は気持ちよさそうに寝ていた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加