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「怜~。待ってよ~。」
「美雪は遅いなぁ。早く帰らないと晩ご飯なくなっちゃうぞ。」
怜は夢を見ている。
子供の頃の…この街に住んでいた頃の夢。
「怜のいじわる~。待ってよ~。あっ…。」
短い声とともに、美雪の足音が聞こえなくなった。
「美雪?」
怜が振り返ると美雪は雪道に前のめりに突っ伏している。
「…なにやってるんだよ…。」
「うぅ…だって…だって…痛いよ~。」
怜は美雪に駆け寄り、手を差し延べた。
「ほら…とりあえず立たないともっと濡れちゃうよ?」
「うぅ…晩ご飯…。」
「もういいから…もしなくなってたら僕が作ってやるよ。」
「…ホントに?」
「なくなってたらね。何が食べたい?」
「えっと…えっと…松茸の土瓶蒸し!」
「……もっと子供らしいものにしようよ。」
「残念。じゃあ…バニラアイス!」
「今、ものすごく冬だぞ。」
「でも、あたしバニラ好きだもん!」
「分かったよ。おばさんに聞いてからやってみようよ。」
「ん…夢か…昔の…?」
怜は体を起こしながら夢を思い返していた。
「美雪がポニーテールだったから、間違いなくあの頃の夢だな。」
少し頭を振って、また横になろうとした瞬間…。
「ジャーン。おはよ~。もう朝だよ~。」
「なっ、美雪か!?」
「ジャーン。おはよ~。もう朝だよ~。」
「…………。」
枕元から美雪の声がする。
声を吹き込むタイプの目覚まし時計らしい。
「これか…。」
「ジャーン。おは。」
怜は時計を睨み付けながら目覚ましを止めた。
昨夜、怜は寝る前に美雪に目覚まし時計を借りていた。
「一番のオススメだよ。」
ニッコリ笑って差し出してきたのがこの時計なのだが…。
「朝からこれは…さすがに心臓に悪いだろ。」
すっかり目が覚めてしまったので、仕方なくベッドを出ることにした。
部屋を出て階段を降りようとしたその時…。
ジリリリガショーンリーン朝だぞ朝だぞキューンキューン
「今度はなんだ!?」
音が聞こえる方を見ると、美雪の部屋のようだった。
「美雪、開けるぞ…うわ。」
開けた瞬間、部屋の中からけたたましい音が飛び出してきた。
そんな中、美雪は気持ちよさそうに寝ていた。
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