じしん。

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舞台を照らす照明 たくさんの観客 二人の間にセンターマイク 横を見れば今日もこいつが立っている。 相方の弓川、彼との付き合いは十年を越える。 もともとお笑いへの道は、こいつに誘われたものだった。 ごく普通の家族と平凡に暮らしていた弓川。 そんな弓川は中学2年の時に漫才師になろうと思ったらしぃ。 俺と出会う2年前だ。 中2の彼は2階建の1階部分の居間で、家族に隠れながらこたつでテレビを観ていた。 知らぬ間に寝てしまっている彼。 そんなとき大きな振動が襲いかかる! 忘れもしない、阪神大震災だ! 大きな音と、うねりをあげて崩れる家具! こたつの目の前にはタンスが!! 弓川目がけて倒れてくる! 『もぅ、あかん!』 そう思った次の瞬間!!! 倒れたタンスはこたつの角に支えられ、斜めのタンスとこたつの間にスペースを作ったのだ!! 奇跡的に一命をとりとめたものの真っ暗だ! どうやら家は崩れ、全壊らしぃ。 そう理解するには7時間を要した。 7時間の間、埋もれていた弓川。 近所の、寝巻姿のおじさんに助けられ、家をみて泣き崩れた。 埋もれたときに、何となく感じていたけれど、目の前にするとスケールが違っていた。その後、弓川は避難所生活を余儀なく強いられる。 避難所は、神戸の大倉山にある文化会館。 震災前はコンサートや劇などが華やかに行われていた場所。 ・・・その姿はもぅ、ない 家族を失い、友を失い、住むところを失い、笑顔を失い、限りがない悲しみに疲れ切った人々。 そんな生活がつづいたある日、2人組の男性が避難所を訪れる。 このおじさんたち、かなり年はいってるだろう。  二人は疲れ切った人々に軽快なトークをしてみせた。 笑顔という感情が甦った! 二人は漫才師、それを見たときの衝撃はかなりのものだった! 疲れ切った人々に、喜怒哀楽の中で、一番引き出すのに難しいとされる楽しさと喜びを与えたのだから! 『これや!この人らみたいに俺もなるんや!』 そう思った彼の、じしんもすごかった!
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