エピローグその壱

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それはクリスマス・イブに起こった。 日もとっぷりと暮れ、きんっと冷えきった冬の空気。 それを震わせる様に救急車のサイレンが鳴り響く。 赤々と回転するランプが照らし出すのは、とある有名進学校の校舎。   出動した救急車、実に三台。 ユニフォームに身を包んだ隊員達が、慌ただしく旧校舎の一室を出入りしている。   「担架だ、担架を早くっ!」   「酸素吸入器をっ!」   「早く応援を要請してくれ、この人数だ、手が回らない」   「受け入れ先の病院はっ!?」   緊迫した声が響いている部屋には……黒いローブの若者達が、バタバタと倒れている。   そぅ、かのKKKの社員達だ。   「一体、何が……」   ある救急隊員が困惑したように辺りを見回す。   「おぃ、君っ君!」   昏倒している一人の少年……栗色の髪をした顔立ちの良い少年。彼の脈をとっていた隊員が叫んだ。   「酸素吸入器、急げ!この子が一番重症だっ」   「よし、担架を……」   「だ、駄目、だっ」   昏睡していた少年が、その瞬間擦れた声を上げた。   「君、意識が戻ったのか!」   自分を抱き起こす隊員の腕を弱々しく掴み、真っ青な顔色でその少年は言った。   「私は、私は死んでも構わないから……頼む、他の皆からさ、先に―――」   ガクリ、とそのまま彼は再び昏倒する。   「おぃっ、君っ君、しっかりしろ!」   床に倒れている彼らにも、その叫びは確実に届いていた。   意識が朦朧とし、体が自由に成らず、呼吸すら上手く出来ないこの状況で……彼は、言葉を発したのだ。   己は死んでも良い。 皆を、皆から先に助けてくれ、と。     「総統閣下っ、貴方って人は!」   誰一人として、叫べなかったけど。 皆は……KKK社員達は心の中で号泣していた。 やはりこの人は、我々の総統なのだ。 こうなった原因が彼に有るとしても、だ。     死屍累々と横たわる社員達。    毎年恒例のKKK・反クリスマス集会。   さて、事の起こりは数時間前にさかのぼるのだが……。
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