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その日、クリスマス・イブの放課後。
ガラリ、とKKKの部室扉を開けた社員12は思わず動きを一瞬制止させた。
ぴしゃりと再び扉を閉める。
辺りを見回す。
見慣れた、旧校舎の廊下。
見慣れた、扉。
うん、ここは確かに自分が所属する孤独高校生結社の集会場だ。
当たり前の事を、再度確認する。
孤独高校生結社。
彼女いない歴と年齢は既に一緒。
オタで非モテで変態、だが紳士的な理想を掲げ日々妄想に耽る、秘密結社だ。
「えーと、アレだよな。多分見間違いだ。疲れてるんだ自分は」
ぶつぶつ呟きながら、再度扉を開き……やはり再び閉じてしまいたくなる。
「やぁ、早いなナンバー12番!一番乗りだぞ」
部屋の中央に座っている総統が、気さくに声をかけてきた。
「えーと、えーと……」
おずおずと、社員12はいつもとは違う雰囲気の部屋へと足を踏み込んだ。
部屋中を、明々と燃えているキャンドルの炎が幻想的に照らしている。
辺りには、恐らく総統自らが作ったと思われる紙製の飾り付けが施され、朗々と宗教歌が流れていた。
狼狽しながら社員12は辺りを見回した。
「閣下……一体なんですか、コレ」
「うん。今回の趣向にピッタリかなぁと思ってだね。凄いだろ?荘厳な雰囲気じゃないかい?」
えっへんと総統は胸を張った。
「荘厳と言うか」
引きつりながら、呻く様に社員12は答えた。
「……自分的には、凄く怖いんですけど」
キャンドル、飾り付け、BGMが宗教歌。
こう形容すれば、クリスマスにピッタリの内装なのかもしれない。
が、KKKは非モテ集団なのだ。
この世界に存在する、バカップルが喜ぶ行事全てに羨望の眼差しを向けつつ、中指を立てる事をポリシーとしているのだ。
そんな彼等の代表たるKKK総統がクリスマスの飾り付け?
断言しよう。
あり得ない。
明々と燃えているのはキャンドルと形容するよりは……蝋燭。
太くて長い、真っ白な蝋燭。それが床にずらりと並んでいる。
壁には大きな紙が貼られ、一面に見事な達筆で般若心経が記されている。
恐らくは書道を嗜む総統自らが書いたのであろう。
部屋の隅のMDラジカセからは、朗々と太くよく響く、恐らくは本職の僧侶の声で読経が流れている。
「閣下、今回は一体、何を?」
社員12に、にっこり笑って総統は答えた。
「うん。ちょっとした降霊術をだね」
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