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曇り空のような胸の内を長女には
見られたくないと
軽い表情をどうにか
取り戻したつもりのさやかは
「ただいま」
務めて軽い声でドアを開ける
誰も帰宅していない
部屋
団地の3階
もう陽は落ちていて
薄暗い室内は
今夜は寂寞とした空気が流れている
ビーフシチューの材料を
手に取り
その皮を剥きはじめながら
目が沁みてくるのは
おおきめの
たまねぎのみえない新鮮なエキスが
顔を静かに襲うからだ
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