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だって、雨の町を見てみたいんですもの。
私は車椅子に沢山取り付けてあるスイッチの一つを押した。
「お嬢様、屋敷内ではおやめ下さい!!」
来夢の悲痛な叫びも虚しく響き渡る中、私の車椅子はモンスターへと変貌していく。
車輪であったものは機械の翼へと変わり、その代わりに椅子の下から鷹の足を連想するような鋼の足が4本伸び、絨毯の上に立ち上がった。
もう、車椅子というより鋼の獣である。
「お嬢様、その子の足の爪で絨毯がまたボロボロになってしまったじゃないですか」
「今日こそは、おしとやかでいるって言ってたのに」
「だいたいお嬢様は.......」
来夢の小姑みたいな話なんか聞いていたら、夜になってしまうわ。
「その話はまた今度ね」
私はそう言うとテラスから空へと舞上がった。
すでに雨はやみ、庭の木々が光輝いている。
「お嬢様!お待ちください!」
私はお嬢様を追い掛けるようにテラスから飛び出し、同時にピュィっと短く指笛をふいた。
下に現れたのは黒い猫。
「追い掛けますよ!」
その声に反応して、猫は瞬く間に来夢の倍はある胴体と翼をもつ 黒い獣になった。
そして、来夢を空中で拾うと 機械の獣と化した車椅子を追い、飛び立った。
「お嬢様ぁぁあ、勝手な行動は困りますぅぅー!」
(なんて速い車椅子なの‥)
口には出せないが、毎回そう思う。ありえない。
私はそんなコトを可能にしてしまうお嬢様を尊敬するし、憧れる。だから私はずーっとお仕えしてきたの。
なにがあってもお嬢様を守りとおす。
やっぱり空は気持ち良いわ。
私の車椅子は本当に鳥のように雨の上がった空を駆けて行く。
しばらくして街が見えてきた
「あら あんな所にお店なんか あったかしら」
大通りからかなり外れた場所に見かけない、お店を見つけた私は、さっそく、行ってみることにした。
店の近くに着地し、普通の車椅子に戻し終わったころようやく、来夢が到着した。
「遅い。そんなようじゃ私(わたくし)を守りきれなくてよ?」
ちょっと意地悪に言ってみる。たぶん叱られた子犬のようにしゅん、とするの。
「‥っ、すみません‥」
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