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お嬢様
ここだけは、いつも優しい風が、吹いている。
広く美しい屋敷の庭にあるこの一角は、私のお気に入りの場所。
目を閉じると、草原を走っている様な爽快感。
もちろん、車椅子なんかじゃなくて自分の足で。
でも、目を開ければ、やはり私は車椅子。
でも、車椅子だって、そんなに悪くは、ないわ。 いつも一緒にいてくれる来夢が、面倒みてくれるもの。
来夢は、父がまだ健在の時に連れて来てくれた可愛いメイドなの。
見た目は小学生みたいだけど、とっても働き者なのよ。
今は私の専属なのだけど、年齢もそうだけど謎の多い不思議な子。
私は小さい頃に母を亡くしていたから妹が出来たみたいで、とっても嬉しいの
でも、私が妹のように接すると、あの子、私は妹では、ありません。 メイドですからって。いつも言うのよね。
まったく頑固で、仕事に忠実なのよ。
「来夢、少し寒くなって来たわ、お部屋に戻りましょう」
寒いのは嫌い。
だから花を摘んでいた来夢を呼び付けて、“早く”と催促するの。
来夢は手に持っていた花を気にする訳でもなく放り、トタトタとこちらに向かってきて、私を家の中へと運ぶ。
‥遠くで雷の音がする。
「雨が降りそうね‥」
そう呟けば、来夢は慌てて部屋を出ていく。
一人残された私は窓際へ移動し、空を眺める。
ポツリ、ポツリと雨が窓をたたく。
雨を眺めるのは悪くない。
一度でいいから土砂降りの雨の中、濡れて帰ってみたかった。
「‥‥」
とんとん、と控えめなノックと共に、おぼんの上にお茶とお菓子を乗っけて来夢が部屋へ入ってきた。
彼女は濡れていた。
洗濯物を取り込んでいる最中に降られてしまったんだろう。
「来夢、タオルを持ってきてちょうだい」
彼女は素早く私にタオルを差し出した。
「さあ、これで髪をお拭きなさい。風邪などひかれたら私が困るもの」
ちょっと意地悪に言ってあげるの。
そうでも言わないと自然に乾くまでほったらかしなだから。
「風邪なんてひきません!それよりお茶が冷めてしまいますよ」
苦笑しながら私はお茶を飲み干すと来夢に言った。
「さあ 町に出かけるわよ。付いてらっしゃい」
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