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なんと言いますか。
昇降口に辿り着いた俺は、また自分が浅薄だったと頭を抱えることとなる。
自分の靴箱前で実際に抱えてるんだけどさ。
「んー、どうしたの?」
健気に待ってくれている人質こと櫻が、靴を履き替えこちらにやってくる。
俺は櫻に靴箱と俺の足を見るよう目配せすると、一度訝しむも素直に従った。
視線の先には、何もない靴箱と何も履いていない足。
「ぷっ……あははははは!!」
一連の分析を終えると、失礼なことに櫻は笑いだしくさりやがりやがったではないか。
「流石に失礼だと思います」
そう呟く俺を余所に、櫻は腹を抱え笑う。
本当にこんなのが我が校のアイドルなのだろうか、と思ってしまうが考えたってしょーもない。
少なくとも、俺は今悲しいんだ。
世界は争いで溢れているということが。
違うか。
「はぁ……はぁ……」
ひとしきり笑い終えたのか、櫻は酸素を求め苦しそうに息をする。
もう悲しくなんかないわ。
私にはスリッパがあるもの。
スリッパでも帰れるもの。
そう事態を達観することに決め、俺は来賓用のスリッパを装着し、地べたにやっと足を付けた。
それを見た櫻が、「鶴来君って、やっぱり面白い人だね」と微笑み掛けてきた時、何故だか俺は心臓の高鳴りを感じたのだった。
それが何かを、この時の俺はまだ知らない。
その後、例によって校門の強硬派らを人質を盾に退け、やっと自宅へと帰還することに成功した。
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