夏。君は、笑った──

1/10
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

夏。君は、笑った──

 ジャーッ    シャカシャカシャカシャカ......    沖縄にある母の実家で過ごした夏休みの数日間。思い出す時にはいつもこの音が付いて来る。茹だる様な暑さの台所。少し錆び付いたシンク。勢い良く流れ出す蛇口の水。それから────三つ上の従姉弟はいつも手を洗っていた。当時まだ子どもだった僕には、それの本当の意味がわからず、ただ“いつまで洗ってるんだよ”と、馬鹿にしてこっそり笑っていた。   「お母さん、石鹸無い!」    彼女にとってはそれが非常に恐ろしいこといらしかった。金切声をあげてたっけ。そりゃぁあれだけ熱心に手を洗っていれば、石鹸だっていつかは無くなるだろう。しかし僕は客と言う立場から、あまり口をきくことが無かった。後で母にだけ教えてやるのだ。   「下の棚にあるでしょう!!」 「取れない!!」    涙声で言う従姉弟を、居間から眺めていた。彼女の母親は二階で洗濯物を干している。父親は仕事に出ていたし、僕の母も友人と出掛けてしまっていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!