”よもぎちゃん”

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 時計を確認する。時間は、さっき教えられた時より三十分程経過しているが、景色は変わらず、未だに温泉は見えてこない。 「オイ!」  と、さっきからずっとよくわからない鼻唄を唄いながら付いて来ているふざけた幽霊に、振り返りもせずに話し掛ける。 「二十分歩けば着くんじゃなかったのか?」 「ん~そのはずなんだけど、もしかして間違えたかな」  と言って笑いやがる。  間違えた? 勘弁してくれ、もうニ時間歩きっぱなしで疲れてんだよ。 「じゃあ、ここ、何処?」  クソッタレ幽霊は、小首を傾げて「さぁ」と苦笑い。誤魔化しにかかっている。 「さっきはお礼を言ったけど、あの分かれ道、本当に右でよかったのか? それすら心配になってきたぞ」 「しっつれいね! あれは本当よ。確か……」  と言葉尻を濁す。どうやら、確実では無さそうだ。となると、 「ここは戻った方が良いか」  そう言って、大きな溜め息を突く。まったく、何て無駄足しちまったんだ。 「えぇ!? 戻らない方が良いよ! この先に絶対温泉あるからさ!」 「それ本当だろうな?」 「た、確かここから三十分歩けば見えてくると思うよ!」 「なんでどもる? ってかまだ三十分もあるのかよ。面倒くせぇなぁ」 「愚痴ばっかり言わないで! もう少しよ、もう少し!」  いや、三十分は少しとは言わないぞ。 「……分かったよ。もうちょっと頑張るか。てか行くにも戻るにも頑張らないといけないからな」  と、俺は投げやりに言って笑った。
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