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……結構前から嫌な予感はしてたんだ。豪快な水の落ちる音がするし。
「ここが温泉かぁ。へぇ~広いなぁ~」
歩き続けて三十分。俺の目の前はガケ。そして、大きな滝が轟然と音を立てている。その滝を呆れたような顔で眺めている。横には小首を傾げて不思議がっているヨモギ。
「おっかしいなぁ~、何処かで道間違えたかなぁ~」
「ハァ~またかよ」
と、溜め息をつきうなだれる。すると視線の先には、揃えられたスニーカーと、その上に手紙らしき物が添えられていた。
”揃えてある靴と添えられた手紙”
嫌な予感がひしひしと伝わってくる。もう確実にこの手紙の内容は”あれ”だろう。それでも違って欲しいと言う少しの望みを抱いて手紙を拾うと、綺麗に便箋を破り、中の手紙を取り出してみる。
”お父さんお母さん、先立つ不幸を……”
(キタ――――――――――!!!)
べたべたな遺書の内容でござる。いかんでござる。ここは予想するまでもなく”自殺の名所”臭いでござる。
呪われるでござる。取り憑かれるのは嫌でござる。
「お、おま、よ、ヨモギさん」
恐怖でどもりながらヨモギを呼ぶ。こいつはさっきからずっと温泉の道でも考えてるのだろう、ああでもないこうでもないと、独り言を繰り返している。
「こ、ここここは、もしかして”自殺の名所”と言われてませんか?」
「名所かどうかは知らないけど、結構ここから飛び降りる人はいるよ。何が楽しいんだろうね? 怖いだけだと思うけどなぁ」
そりゃあ怖いですよ。色んな意味で。てか完全に名所じゃないか! あったじゃん名所が!
「帰る」
そう呟くと、手紙を便箋に綺麗に入れ戻し、スニーカーの上に丁寧に置いて合掌する。それが済むと、
「もう帰る! 温泉なんでどうでもいい!」
そう叫んで、急いでもと来た道を引き返す事にした。
何だって、温泉目指して自殺の名所にこなきゃいけないんだよ! おっかないし、不愉快だ! 腹が立つ!
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