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「ねぇ、本当に帰っちゃうの?」
早足で歩く俺の後ろから、ヨモギが話し掛ける。
「当たり前だ。三時間近く歩き続けて何もなし。どうせお前も道判んないんだろ? じゃあ行く事なんて出来ねえじゃん。帰った方がましだ」
(それに、呪われたくないしな)
「判るよ!」
「じゃあ何で何回も間違えるんだよ?」
「こ、ここって同じような道があってよく間違えるんだよ! だから私もちょっと間違えただけ」
「確かに同じような道ってのは分かる。でも本当に分かるのか? 実は分からないんじゃないのか?」
「分かるってば! ちょっと間違えただけじゃない!」
ヨモギは怒りをあらわにして叫ぶ。
「悪い、ちと言いすぎた」
「ううん、私も何度も間違えてゴメンね」
そう、かぶりを振ってヨモギは謝り、うなだれる。何だ、そんな風に謝られるとこっちが悪いみたいじゃないか。
「ま、まぁ、しょうがない。誰にだって間違いはある。分かるんだったら、ホラ、もっとよく考えてみろ」
「うん、本当の事いうとね、私、山中温泉の女将の一人娘なの。それがある日栗を拾いに山に入ったら、迷って出れなくなっちゃって、気付いたらこんな風になってたのよ」
今にも泣きそうな顔で話し出すヨモギ。ってやっぱり幽霊だったんじゃないか!
「だから、他の人に私のようになって欲しくないから、せめて温泉に迷わないで来れるように案内している……、はずなんだけどなぁ」
(これで案内しているつもりか?)
そう思ったが、声が震えていて、多分泣きそうなのを堪えているヨモギには言い出せずに黙った。
「いつも間違えてばかり。私って、駄目だね」
言い終わると、ヨモギは寂しそうに笑う。その笑顔に胸が詰まる。
「なんて言って良いのか。お前は、その、駄目じゃないと思うぞ!」
「そうかな?」
「そうだ。駄目なんかじゃない!」
「この話が全くの作り話でも?」
「そうだ! 作り話だろうが何だろうが関係ない!」
俺は確りと言える。毎回ミスをしようとも、他の人の為に、ヨモギが精一杯に頑張っているだろう事を!
「怒らない?」
「何を怒る事があるんだ? お前は精一杯頑張ったんだろう?」
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