”よもぎちゃん”

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「ああそっか! だからあの時、真直ぐ行っても温泉に着かなかったんだ! うっかり忘れてたよ」  漸く謎が解けて、晴れ晴れとした表情になるヨモギ。  そんな大事な事、ワスレルナ!  それに、主って何だ? 超常現象過ぎるぞ。まぁ、目の前にいるこいつが既に超常現象だが。 「あの、さ。主って何な訳?」 「主さんは、主さんだよ。あのね、この森の代表取締役って所かな? 結構悪戯好きでね、茂君みたく人が迷って困ってるのみて楽しんでるんだよ。多分、今のこのやり取りも何処かで見てるはずだし」 (た、性質の悪い奴だ……) 「じゃあ俺は、今まさに主の笑いの種になっている。そう言う事だな?」 「うん! そう言う事! オメデトー!」  何がめでたいのか、笑いながら拍手をしてやがる。お前の頭がめでたいよ!  俺は精一杯の溜め息を突くと、その場に座り込む。 「どうしたの?」 「疲れた。やってらんねぇ」  ああ、やってらんないさ! 主だか何だか知らねぇが、道を変えられたんじゃあ帰りようが無いじゃないか!  おまけにヨモギの野郎も、天然かも知らんが人を馬鹿にして遊んでやがる。こいつと付き合ってても疲れるだ けだ。もう諦めてここで寝る! 二人に馬鹿にされるのはうんざりだ!  幸い、何故か知らないが寒くは無いし。それに、キャンプで使ってそのままにしておいたバッグを持ってきたから、寝袋が丁度良く入っている。 「あれ? 準備良いんだね、寝袋なんて持って来て」 「煩い。俺はもう寝るから、お前は何処へなりとも行って良いぞ。寧ろ何処かに行け! ああそうだ、無駄に道を教えてくれた事にだけは礼を言っとく、ありがとな! それじゃ!」  と言ってヨモギの反応を待たずに、寝袋のチャックを上げ、目を瞑った。  暫く静寂が続いたが、枯葉を踏む足音がし、それが遠ざかって行った。ヨモギが何処かへ去ったのだろう。  結局、あいつの正体が何なのかは分からなかった。もう会う事も無いから、そんな事はどうでもいいが。  足音も聞こえなくなり、辺りは静寂に包まれ、音と言えば、時折ふくろうの鳴き声が不気味に聞こえるだけとなった。
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