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「ハイ、着いたよ」
と、熊が運んでくれた所は、あの”山仲”温泉だった。
朝になると、俺とヨモギを背中に乗せた熊は、すいすいと山道を走っていく。一時間ぐらいすると、昨日あれだけ迷ったのが馬鹿みたいなほどあっけなく、森を抜けて温泉前に到着した。
しかし、俺が行きたいのは”山中”であって”山仲”でない。その事を熊に言うと、
「あぁ、お前何にも知らないんだな。ま、しょうがないか」
そう言ってもう一度俺を背中に乗せて、温泉の裏手に回る。
「……」
「ホレ、着いたぞ」
「……」
「着いたって言ってんじゃんかよ!」
そう言って、熊は俺を振り落とした。
「どうしたの茂君? ぼけっっとしちゃってさ」
「こ、こここ、ここ、ここっこ」
あまりの衝撃で、うまく声がでない。
「何? 何いきなり鶏の真似なんてしてるのさ! おっかしー!」
ヨモギが笑う。いや、鶏の真似だとかはどうでもいい、
「何、ここ?」
とヨモギに問う。
「何って、茂君の行きたがってた”山中”温泉だよ」
「裏?」
と、今度は熊に問う。すると、熊は哀れんだ笑みを浮かべ頷く。
俺の目の前には、木造の古い建物がそびえ立ち、入り口には”山中温泉宿”と看板が掲げてあった。
”山中”温泉は”山仲”温泉の裏にあり、しかも”山仲”の方と繋がっていたのだ!
(どんな落ちだーーーーーーー!!!)
と、非常に突っ込みたい気分だ。
「あら、いらっしゃいませ」
と、温泉から女将さんらしき人が……
「女将ーーーーー!!!」
それは”山仲”温泉で、俺に応対した女将だった。
「あ、主さんだ」
と、ヨモギが言う。
「主?」
「そ、この人が森の主さんだよ」
「な゛……!!!」
それを聞いた直後、俺の怒りは最高潮に達したのだけど、気が付いた時には、旅館の布団の上だった。
どうやら、そのままぶっ倒れたらしい。横で付き添っていた女将がそう教えてくれた。
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