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「大体よ、”ここをまっすぐ”って、時間ぐらい書いとけよ!」
時計を見て二十分経っている事を確認すると、大声で愚痴を叫ぶ。
なんとも堪え性の無い俺は、全くもって変化の無い山道を歩くことへ既に嫌気が指していた。
文系の奴等なら、紅葉を愛でながら”はかない”詩でも考える所だろうが、俺にそんな繊細な感情は、ナイ! 皆無だ!
「とっとと温泉見えて来い! コノヤロー!」
等とあごをしゃくらせて愚痴を言いながら進んで行くと、道が二つに分かれている。
「ちょっと待て! あの立て札には”ここをまっすぐ”って書いてあったよな? まっすぐってどっちだよ! てか一本道じゃないのかよ!」
道は、左と右に極端に分かれていて、”まっすぐ”と言う言葉はどちらにも当てはまらない。
「これはどっちに行けば宜しいのでしょうか?」
分かれ道の丁度真ん中で、どっしり構えている大木に対して語りかけてみるが、答えは当たり前に……、あった!
微かだけど、「右だよ~」と俺の耳には聞こえた。そうか右か!
「よく分からないが、木よ、有難う!」
そうお礼を言って、幹を撫でてやる。
「うわぁ、くすぐったいよ!」
今度は、自分で木の気持ちを勝手に代弁し、
「虚しいだけだなぁ~」
と、ゆるい一人ボケ突っ込みをかましてから、漸く事の不思議さに気付いた。
「木が喋った……よな、さっき」
確かに俺の耳には、この木から「右だよ」と言う声が聞こえた。
「おい!」
と、今度は思いっきり木に長渕キックを入れる。しかし、鈍い音と共に枯葉がわさわさと舞い降りてくるだけで、それ以外の反応を木は何も示さない。
「木の所為、いや気の所為か。そうだな! ワハ、ワハハハハハ!」
と寒い親父ギャグをすっ飛ばし高笑いをすると、気の所為である事を根拠も無しに確信して、右の道へ進む事にした。
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