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その30分後、今度は違う木に、
「本当に右で宜しいのでしょうか?」
と話し掛けていた。
行けども行けども木々に囲まれた変わる事の無い山道。俺の心には、不安と言う荷物がズシリとのしかかり、重みを増して来ていた。
そこで、気の所為ならぬ木の精にもう一度頼ろうかとボケをかましてみたものの、当たり前のように反応は無く、不安よりも虚しさが増しただけだった。
当初の予定では、想像でしかないが100分歩かないと温泉にはつかないから、まだ半分しか歩いていない事になる。それを思うと、うんざりしてその場にへたり込んでしまう。
「どうせ行っても、ボロイ温泉なんだろ?」
それならいっそ帰ろうか? とも思ったが、帰るにしても50分かけてこの道を戻らなくてはならない。こんなことなら、最初からこの道に入らなければ良かったと後悔するが、後の祭りだ。
「しょうがない、行くか」
そう呟いて、ゆっくりと立ち上がると、一歩、また一歩と土を踏みしめる。その時、
「頑張れ~」
と、また微かに声が聞こえた。
「今度はお前か?」
と、道に落ちているいが栗に語りかけてみるが、反応は無い。そしていが栗のいがを割って中を見てみると、
「もぬけの殻だ……」
栗は入っていなかった。その栗をじっと見詰め、
「今回は駄目だ! いいギャグが思いつかない!」
そう言って悔しがった。しかし、俺の中のもう一人の俺が囁く、
(ギャグなんかどうでもいいから、聞こえた声に怖がるか驚くかしろよ! 考えられねえぞ自分!)
それから45分。想像の100分まで後5分と言う所まで来たが、未だ景色に変化は無い。
「あと5分で着く筈なんだぞ! コノヤロー!」
と、精一杯アゴをしゃくらせて叫んでみるが、虚しいだけ。これで着かなかったら道を間違えたと言う事になる。
「いや、間違った道を教えられたんだよ」
そうだ、さっきから微かな声で囁いている奴が俺の近くにいる!
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