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(一体、誰だ?)
散々と山道を歩きまわってくたくたに疲れ、日が落ちかけている今になって、漸く俺はその声について考えるようになっていた。
「幽霊っすか?」
ポツリと呟く。
富士の樹海程では無いにしても、鬱蒼としたこの果て無き山道の終わりには、自殺の名所でも待っているのではないか? そして、さっきから聞こえてくる声の正体は、そこで自殺した人の霊……
「まじっすか? 俺は取り憑かれたのかも知れないんすか?」
やばい、絶対にそれはやばい! とっとと帰らねば”お仲間”に引きずり込まれるかもしれない!
「よし!」
と無駄に意気込んで踵を返すと、
「何処行くの~」
後ろから、微かに声が聞こえる。
「そっちじゃないよ~」
少し、声が大きくなった気がする。何かが後ろにいる! そう確信すると、恐怖心が俺の背中を押し、歩みが速くなる。
「待ってよ~」
「待てるか!」
うっかり、声が出てしまう。今は後ろの声の主に少しでも構うと駄目なような気がひしひしとする。
「何で待てないの~」
「――」
「答えてよ~」
「――」
「答えろよ~ズボンのチャックが開いてるぞ~」
「嘘!?」
焦ってズボンを確認するが、チャックは開いていない。
(騙された!)
そう思うと恥ずかしくなり、咳払いを一つするとまた早歩きを始める。
「あぁ~待ってよ~」
今度は無視! 絶対に無視! 徹底的に!! ムシ!!!
「あ、目の前危ないよ」
「へ?」
ゴン、と鈍い音が響き、と額を鈍器で叩かれたような衝撃が走る。
「いってぇ~」
転びはしなかったものの、俺は額を抑えてうずくまる。痛みで、涙がこぼれる。
もう頭に来た! 何で俺がこんな森の中で木に頭ぶつけてうずくまってなきゃならんのだ! それもこれも全部後ろにいる奴の所為だ!!!
幽霊? 幽霊って、ナニ?
関係ねぇ! 思いっきり文句いってやる!!!
俺は、意を決して後ろを振り返った――
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