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それは、奇跡としか言い様のない出来事だった。
とうに奪還など諦め、新たなワールドプラネットの展開を計画していた私達にとって、それはまさに奇跡としか言い様が無かった。
ミカエルがその世界へと旅立ってから74日目。
私の愛する息子は誰もが不可能とさじを投げた事をやってのけた。
しかし、それは同時に。
その愛する息子も、ある世界の終焉に引っ張られたという事を意味する。
不思議と涙は出てこなかった。――彼も、ミカエルも。それを覚悟した上でそうしたのだ。
むしろ嬉しくもある。
今世紀最高の頭脳を超えたのだから。ただ恐らく新人類への移行プロジェクトは百年は遅れる事になっただろうが。
それより。これからまた忙しくなりそうだ。
大混乱になった世界。それもこれで落ち着くだろうがこれまた各方面への説明やらフォローやらが山の様に待っている。
「今は働かないとね。それがきっと、あの子の為だもの。」
そう言って私は椅子から立ち上がった。
外に出るなんて何ヵ月振りの事だろう。
パソコンに映る自分はひどい顔をしていたし、夫も顔中毛だらけで汚らしい。
こりゃまずは夫婦揃って美容院にでも行かなきゃいけないのかな――――
ワールドプラネットが復旧した事で殺到したメール。
非道い事にその中に紛れ込んだあの子のメールに気が付いたのは世界中を頭下げて回って帰ってきた後だった。
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