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満員電車の中。
腿に感じた違和感に杉崎由紀は、体を硬直させた。
何者かの手が、腿や腰をねっとりと撫で回す。
背後からは、荒い息づかいが聞こえる。
由紀は、声をあげようとしたが、恐怖のせいで声が出なかった。
背後の、何者かの手は由紀が抵抗しないことを良いことにその動きを激しくする。
息づかいは、尚、荒くなり、首筋に熱い吐息がかけられ、ぞわりと、全身が粟立つ。
頭では、嫌だ!と、逃げたい!と、言っているのに、足がすくみ動けない。
背後からの手は、止まることを知らず、由紀の腹部に片腕を回す。
そこから手を下へ動かし、下腹部でその動きが止まった。
そして、ベルトに手を掛けようとしたその時、駅に近付いたのだろう、アナウンスが電車の中に響いた。
背後の人物は小さくチッと、舌打ちをすると、由紀の体から手を離し、足早に離れていった。
後ろを振り向き、誰もいなくなったことを確認すると、由紀は胸に手を当て安堵の溜め息を吐く。
音をたてて動いていた電車は、ゆっくりとスピードを落とし、駅のホームに入ると一度ガタンと大きく揺れ、停車した。
由紀は、先程のことで、少し乱れてしまった服を軽く直す。
電車は、軽い音をたてて扉を開いた。
扉が開かれると同時に沢山の人がぞろぞろと、降車していく。
由紀も人混みに押されながら電車を後にした。
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