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高層ビルが鬱蒼と建ち並ぶオフィス街、その中に槇村幸助が社長を務める“槇村カンパニー”のビルはあった。
そのビルを目指し、ヒールの底を慌ただしく鳴らす一人の女性…──花森 由香(ハナモリ ユカ)。彼女は槇村カンパニーのしがない事務員の一人として働いているのだが、今日はたまたま寝坊をしてしまい、今こうして人混みの中を会社に遅れまいと急いでいるのである。
「ハァッハァッ、ハァッ、」
この時程、“もっと運動しておけば良かった”などと思った事はない。何せ運動らしい運動といえば、学生時代の体育の授業等でしかしたことがないのだ。正直言ってほんのちょっとの距離を走る事すら彼女にとってはキツい。
業務開始5分前、何とかギリギリに職場に到着した由香は、上司にさんざん小言を言われながらも自分のデスクに座り、せっせと準備をし始める。
「私だって好きで寝坊したわけじゃないわよこのハゲ頭っ! 」
未だにグチグチと小言を零す上司に、由香はガツンとそう言ってやりたかったが如何せん、あくまでも相手は上司なのだ。ちょっとした言動が命取りになるためそこはぐっとこらえる。
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