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毎年毎年お小遣いを貯めてはみるものの、いつも家族の誕生日などで消えていってしまう為小さなブローチさえも手元のお金では買えない。
少女はため息をついて、露店から視線を逸らした。
こんな時に思い出すのが、意地悪な幼なじみの言葉。
お前はからかわれてるだけなんだから行くのはやめとけよ、とそんな彼の声が頭をよぎる。
彼女はその幼なじみ、ヴィンセント・アドルフ・グラッデンが好きではなかった。
他の子のようにみんなで虐めるような事はしないけど、その冷たい言い方をする彼を好きにはなれなかった。
(やだ!あんな奴の事なんか思い出したくないのに…)
最悪だ。
クリスマスには特に彼を思い出したくなかった。
ただ一度だけ、彼は少女に自分から会いに来た。
いつものように何か意地悪な事を言うのかと思ったが、彼は彼女を見ると口をへの字にして去って行ってしまった。
彼女の目の前からも、この街からも。
それが一昨年のクリスマス間近の出来事だった。
誰にも何も告げずに彼は母親と共に突然この街から消えたのだ…。
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