†童は見たり†

3/22
128人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
 毎年毎年お小遣いを貯めてはみるものの、いつも家族の誕生日などで消えていってしまう為小さなブローチさえも手元のお金では買えない。  少女はため息をついて、露店から視線を逸らした。  こんな時に思い出すのが、意地悪な幼なじみの言葉。  お前はからかわれてるだけなんだから行くのはやめとけよ、とそんな彼の声が頭をよぎる。  彼女はその幼なじみ、ヴィンセント・アドルフ・グラッデンが好きではなかった。  他の子のようにみんなで虐めるような事はしないけど、その冷たい言い方をする彼を好きにはなれなかった。 (やだ!あんな奴の事なんか思い出したくないのに…)  最悪だ。  クリスマスには特に彼を思い出したくなかった。  ただ一度だけ、彼は少女に自分から会いに来た。  いつものように何か意地悪な事を言うのかと思ったが、彼は彼女を見ると口をへの字にして去って行ってしまった。  彼女の目の前からも、この街からも。  それが一昨年のクリスマス間近の出来事だった。  誰にも何も告げずに彼は母親と共に突然この街から消えたのだ…。  
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!