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夫婦の場合
夫と妻はそれぞれ休み時間を利用して、作業を始めた。
夫は作業を終えて、会社へ戻る。
そして妻は逆に作業の為、台所に立った。
二人が顔を合わせたのは、昭義が残業を終えて帰ってきた23時半だった。
「ただいま。」
「おかえり。」
相変わらず冷めていることに変わりはないが、
なにかいい匂いがする。
「なんの匂いだ?」
「お祝いの料理です。」
昭義には、今日が何の日かは分かっていた。
だが、それを口にするのが恐かった。
妻が忘れているかもしれないと思ったからだ。
だがしかし、今目の前に並ぶ御馳走を見て、
妻を今ひとつ信じていなかった自分を恥じた。
「ごめん…。」
義昭の口から思いもよらない言葉が出たので、幸子は驚いてしまった。
「今日はエイプリルフールだよ?」
幸子は少し笑った。
「嘘じゃない。」
義昭は左ポケットから、小さな小箱を取り出した。
「指輪…?」
幸子の目が少しばかり潤んだ。
「お祝いだ。」
もうそれ以上言葉はいらなかった。
すれ違ってきた二人の溝を、何かが埋めていった。
そう、今日は2人の結婚記念日…。
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