夫婦の場合

1/1
前へ
/7ページ
次へ

夫婦の場合

夫と妻はそれぞれ休み時間を利用して、作業を始めた。 夫は作業を終えて、会社へ戻る。 そして妻は逆に作業の為、台所に立った。 二人が顔を合わせたのは、昭義が残業を終えて帰ってきた23時半だった。 「ただいま。」 「おかえり。」 相変わらず冷めていることに変わりはないが、 なにかいい匂いがする。 「なんの匂いだ?」 「お祝いの料理です。」 昭義には、今日が何の日かは分かっていた。 だが、それを口にするのが恐かった。 妻が忘れているかもしれないと思ったからだ。 だがしかし、今目の前に並ぶ御馳走を見て、 妻を今ひとつ信じていなかった自分を恥じた。 「ごめん…。」 義昭の口から思いもよらない言葉が出たので、幸子は驚いてしまった。 「今日はエイプリルフールだよ?」 幸子は少し笑った。 「嘘じゃない。」 義昭は左ポケットから、小さな小箱を取り出した。 「指輪…?」 幸子の目が少しばかり潤んだ。 「お祝いだ。」 もうそれ以上言葉はいらなかった。 すれ違ってきた二人の溝を、何かが埋めていった。 そう、今日は2人の結婚記念日…。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加