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次の日は、目が覚めて三波がいない事に気付き、それからは部屋に籠りっ切りになっていた。
どんな夢を見たのかは覚えていない。けれど、テレビに反射した自分の姿が骸骨に見えた。
真田は、久し振りに一人きりの休日を手に入れたはずなのに、何もやりたい事が見つからなかった。
最近近所に出来たハンバーグ店にでも行けば良かったのだが、外に出て日の光に当たる事が酷く辛い事の様に思え、結局ソファーの上で一日を過ごした。
口がだらしなく開き、足も適当に屈折されていたが、きちんとする事に抵抗を覚えた。
ほとんど何もせず、何も食べず、夜になって、暗くなって、そして眠った。
今日――。
朝から、真田は緊張していた。
いつもと違う週末を送ったからかもしれない。最高の気分を味わった矢先の喪失感。はっきりとしないファクターを抱えたまま、心臓だけが馬鹿にハイテンションだった。
――嬉しかったはずだ。お互い、分かりあえたはずだ。
だが、三波は来なかった。真田を一人にし、しかし真田に自由を与えなかった。ひたすら部屋にいたのだ。ただ、三波が来るのを待っていたのだ。
いつもの階段をいつも通りに上ろうとするが、一定のリズムを得る事が出来ない。初めて階段を上る幼児の様に、段と足とを見比べながら、ゆっくりと進んだ。
後ろから、同僚の黒髪の女が階段を駈け上ってくる。
「顔色、ほんとに悪いですよ」
そう言って心配していなさそうな表情で、真田を追い越していった。
やっと階段を上り終え、廊下を進み、一番奥のドアを開ける。
内心はドアの前で立ち止まりたかったが、余計に入れなくなりそうだったため、ここは勢いに任せた。
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