真田

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〈3〉  どれくらい時間が経っただろうか――。  真田は模糊とした脳裡に激しい痛みが走るのを感じた。しかし、上半身は完全にカウンターへ突っ伏する状態で預けられており、腕に力が入らない。  焼き鳥の匂いと音を知覚する。  テレビからは騒々しい笑い声がしている。  だが。  この空間からは、生身の人間の気配がしない。声がしないせいだ。  自分は今し方、眠っていたのか覚醒していたのか判然としない。つい数分前のことも思い出せない。  つまり、酔い潰れたという事だ。  真田は、まだ寝ぼけている腕に少しずつ力を込め、上体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。頭が鉛のように重たく、異物のごとく首の上で揺れている。当然、視点も定まらない。  焼き物から立ち上ぼる煙の向こうに、主人らしきものが見えた。  まるでゴースト現象さながら、分身しているようだ。  心臓の脈拍に呼応する痛みが、頭の芯に走る。  真田は隣りで蹲っている塊を叩いた。  だが、塊はまるで起きる様子がない。  煙が目に沁みて、視界が暈ける。もはや、真田の目はその機能を果たしていなかった。  ――くらくらする。  ――女がこっちを見ている。  くらくらする。  女が……。  女。  真田はその女を視界の隅に捉えて、崩れ落ちた。
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