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メイドが殺される。メイドが殺される。メイドが殺される夢を見る。
秋葉原のおでん缶と、さまざまな女の子をバッグに詰めた、ひ弱そうな男の子がメイドを殺しに来る。手にはハンマー。血肉の塊。
僕は震える。見てはいけない。触れてはいけない。
触れてはいけないのだ。
メイドに触れてはいけない。なぜならメイドは幻想だから。現実には存在しない生き物だから。不確定なところを妄想で補った夢の産物だから。
彼女たちは現実の女の子のように汚れていない。口だって悪くない。肌は白く、髪は細くてどこまでも真っ直ぐ。フリルをあしらったエプロンドレスに身を包み、決して裏切らずに佇む。
だから触れてはいけない。触れたら最期だ。
例えば、メイドに触れたとき、甘い香りが僕を包み、線香のように火花が散り、目からハートが零れ落ちる。そして僕は動悸が早くなり、涎を垂らしながら腰から落ちて行くんだ。そして僕は死ぬまで幸せに包まれる。
しかし、あのチラシを配っているメイドに触れたところで、そうはならないだろう。なぜならあれはただのバイトだから。特になにも起こらず、幻滅する、の、だ、ろう。
しかしもし現実に、メイドに触れてそうなったらどんな気持ちだろう。
それは酒か麻薬か、はたまたリストカットか。もしも、もしも本当に幸せに包まれたら……? 包まれてみたい。この悲しい現実から抜け出して包まれてみたい。
触ってみようか。だってメイドだもの。主人に従順なはずだもの。怒られるわけがない。
取りあえず緊張をほぐすために同人誌を買おう。フィギアも買う。そしてそれらを読んだ後、カバンに詰める。
でも、でももし、会話に詰まったらどうしよう。取りあえず二人でおでん缶を食べて和もう。
まてよ。もしメイドが男の子に襲われたら、僕には勝ち目がない。ハンマーだ。ハンマーを持っていこう。
準備は満タン。さあ出かけよう。
僕が君を守るから。
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