父親編2

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お父さん 「男は人前で泣くものではない」と厳しく言ってましたよね。 だから、お父さんが亡くなる時も通夜でも葬式でも 俺は決して泣かなかったのです。 あの頃、まだ幼稚園児だった弟はもう大学生です。 成長する毎に、顔、声、体格、なぜか仕草まで、 お父さんに生き写しと誰からも言われるようになりました。 弟が俺の結婚式で着ていたのは、お父さんのスーツでした。 「これお父さんの服」と弟に言われる迄、気付きませんでしたが。 弟はただ、ピッタリだからというだけの理由で着たようです。 しかし、それを知ったが最後、弟にばかり気を取られます。 一瞬、お父さんかと錯覚する程似て見えます。 お父さんに、今日のこの場所にいてほしかった。 そして「育ててくれてありがとう」と言いたかった。 初めてネクタイを締めた弟の姿を見せたかった。 様々な思いが去来する中、俺に「おめでとう」と言った弟の声が、 あまりにもお父さんに似過ぎていて涙を堪えきれなくなっ たのです。 言い付けを守れなくてすみません。 けれど、こればかりはお父さんも許してくれるのではないか、 と甘く考えていることも、正直に書いておきます。
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