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雨がぽつんと皮膚に触れる。
彼女は腰を上げ、赤い傘をさした。
僕もそれに倣う。
僕らが駅に着く頃には、雨は本降りになっていた。
行きと同じように電車に揺られ、都心へと向かっていく。
電車から降りたとき、傘を持たずに駅で雨宿りしている人達がちらほらいた。
彼女の家は僕の家と同じ方向らしいので、途中まで送って行く。
彼女の家には行ったことがなかった。
どこにあるのかも詳しくはわからない。
いつも同じ場所で、別れを告げ、それぞれの家に向かうのが習慣だった。
駅から遠ざかるほど人通りは少なくなり、住宅街は雨の音と、たまに走る車の音しかしない。
「やりたいことは済ませた?」
彼女は今日に限って――いや今日だからこそかもしれないが――よく質問をしてくる。
「やりたいことなんて、いっぱいあるようでないんだ。
ありのままでいて、コロッと死ぬのが一番さ」
「そう……」
彼女は立ち止まり鞄を漁っている。
僕も少し歩いたところで立ち止まり、彼女の方を振り向いた。
彼女は急に傘を投げ出し、水溜まりの中を走って、僕の胸に飛び込んできた。
僕はいきなりのことで反応できず、持っていた傘を手放す。
そして、体は後ろに倒れた。
胸に激痛が走る。
彼女の手には、血で赤く染まった包丁が握られていた。
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