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何が起こったのか、すぐには把握できなかった。
彼女は僕の上に馬乗りになり、さらに刃を胸に深く沈める。
視界が歪んだ。
呼吸がまともにできない。
彼女は相変わらず冷たい声で言う。
「あなたは明日、転倒した車の下敷きになり、内臓破裂、全身複雑骨折で病院に運ばれるも、死ぬ運命なの。
そんな苦しませるより、ここで私に殺されて死ぬ方がよっぽど楽だし、醜くないわ。
すぐに楽になれるから……」
彼女の声もあまり耳に入らないまま、段々と意識が遠退き、痛みを感じなくなる。
死期が迫ってるのが痛い程わかった。
「ごめんなさい」
遠くの方で彼女が謝っているのが微かに聞こえる。
目の前に彼女がいるのに。
「いや、いいんだ……。
ありがとう」
僕は最後まで心から彼女に感謝していた。
今までこうやって過ごせてきたのも彼女のおかげだ。
悔いがなかったと言ったら嘘になる。
しかしそんなのはどうでもよかった。
彼女といれただけ幸せだった。
降りしきる雨の中、ぼやけた視界の中に彼女の顔だけがはっきりと見える。
濡れた髪から滴る水が、僕の顔に落ちる。
彼女の頬を流れる水が、涙のように見えた。
目の前が黒に染まった。
‐END‐
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