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「訳?」
鸚鵡返しの俺に、男は疲れた表情で缶を呷った。「人口問題ですよ。」
俺はニュースを思い出した。
「人口爆発がどうとか?」
「いえ、逆ですよ。人口減少です。最近は人間が減りましてね。」
「は?」
眉根を寄せる俺に構わず、男は続ける。
「最近は人間が悪魔化して人口が減りましたのでね。人口調整のために我々悪魔が人間になったのですよ。欠員補充といえば聞こえはいいが、今流行りのリストラといえばそれまでですな。」
自称悪魔は、はははと笑って、手首の金時計に目を落とした。
「おっと、会議に遅れてしまう。」
そいつは一気に缶を空けると、俺に目を戻した。
「私はこれでも役員でしてね。忙しいことといったら。」
男がこぼしながら挙げた企業の名は、俺も知っていた。今よく言われるエコロジーだのの話で、結構知られた会社だ。
男はきちんと缶を屑籠に捨て、俺にあいさつした。
「私はこれで失礼します。会議に遅れますので。」
男はてくてくと歩きだしたが、何歩か行って、くるりと振り向いた。
そして一言、こう言った。
「あなた、大丈夫ですか?」
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