彼の思い。

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彼の思い。

彼の命日。俺達は休みを取った。 彼に報告する為に。   朋美の実家に寄り、しばらく話をした。   小高い丘の上に、彼のお墓がある。   花を手向け、手を合わせた。   港に寄り、防波堤で二人寄り添い沖に向かい、祈った。   沖から何か近づいてくる、ゆっくりと。   新栄丸だった。   俺達の前に、彼が立った    トモ、久しぶりだね。 俺の気持ちを伝えたくて、戻ってきた。   あの日、網を引いていた。 俺の船に気付かず、大型船が追突した。 飛び込んだけど、潮の流れが速くて流された。 そして、力つきた。   結婚式をするのが、楽しみだった。寂しい思いさせて、ごめんな。   トモの姿を今の今まで見ていたけど。   俺の事は、忘れてくれ。今、大事な物を守って。幸せに暮らして欲しい。  俺に出来なかった事を、君に任す。 トモを幸せにしてやってくれ。 約束してくれないか。     必ず、朋美を幸せにします。安心して下さい。     トモ、泣くな。 俺はもう居ないんだ。 これで思い残す事がない。 最後に、結婚式を見て。旅立つ事にする。 じゃあまたな。     あなたの事が、忘れたかった。 でも、どうしても忘れられなかった。 あなたは、また私を置いて行こうとするの。 身勝手な事ばっかり。 あなたを愛した私の気持ちを考えて。     トモの気持ちを新栄丸に乗せる。俺を想う気持ちは無くなるだろう。 最後に愛している。さようなら。     彼は新栄丸と共に、俺達の前から消えていた。
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