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小雪
お店の中に入ってもらい、
温かいレモンティーとショートケーキを出してあげた。
君は下を向いたまま座っている。
俺は聞いてみる事にした。
前回来ていただいた時も、寂しそうにしていましたね。どうなさいましたか。
その瞬間に、君の瞳から大粒の涙が流れ落ちた。
君は泣きながら、俺に話し始めた。
私の名前は、朋美。和歌山県で住んでいます。
私には、婚約者がいました。
婚約者は、漁師をしていました。
彼は、まだ夜が明けぬ港に、いつもの様に笑顔で港を出て行きました。
あんな事になるなんて、誰も思っていませんでした。
港に無線が入りました。
それは、彼の仲間の船からでした。
新栄丸が……。真っ二つになっている。海上保安庁に連絡してくれ。
組合の友達が私のもとにやって来ました。
朋…、落ち着いて聞……新栄丸が……なった……
友達の静止を振り払い、玄関を飛び出しました。
小雪が舞う中、裸足で港へ走り出しました。
漁師仲間の虎さんの船が港に戻って来ました。
トモちゃん、大丈夫だからね。
今、皆の船と海上保安庁とで探しているから
きっと、見つけるから。
私も連れて行って下さい、私も探します。お願いだから、連れて行って。
トモちゃん、駄目だよ。ここで奴が帰るのを待ってやってくれ、俺達が必ず見つけるから。
そして、また虎さんは彼を探しに船を出しました。
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