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最近まで、昼食はとある店によく行っていた。
店長と古い知り合いだと言う事もあるが、ガラス越しに見た店内の雰囲気がとても楽しげだったから、と言うのが一番の理由だろう。
ドアを開けると、”カラン”と軽快な鐘の音と共に、お客さん達の賑やかな喧騒が耳に飛び込んできた。高い屋根のガラスから差し込む日光、そして店内に溢れる笑顔に思わず顔を綻ばせながらカウンターに座る。
「やあ、来てくれてありがとう」
そう言った店長も笑顔だった。
手渡されたメニューから適当にオーダーし終えると、また店内を見渡す。
(明るくて良い店だな)
そう思ったのはここまでだった。
運ばれてきた料理の量は妙に少なく、何かの冗談では? と疑ったが、周りも同じぐらいの量に不満も言わず、満足そうにしている。味も並、値段もそこそこ、とは言えこの店ではそれが普通なんだろう。
何度か通う内、店内の明るさにも疑問を持ち始めた。
店に来ている人達、店長も皆仲が良いらしく、訳隔てなく談笑している。その中で、私一人だけポツンとしており、異物のような存在だった。何回かは会話をする機会も持ったのだが、どうも溶け込めない……。要は合わないのだ。私と他の人達間には、大きな見えない壁が存在しているようで、息苦しささえ感じてしまう。
それでも、何度も何度も足を運んだ。何故だろうか? それは、その店内の明るさに憧れ、中に入りたいと思ったからだ。しかし交われない。
(止めよう)
この店に来るのを……。何度目か来た時にふとそう思った。息苦しい場の中で不満ばかりをためていても、叶わない望みにすがっていてもしょうがないだろう? そう自分に言い聞かせた。
そして最後のオーダーは思い切り苦いコーヒー一杯だけを頼む。
「今日は何も食べないのかい?」
と言う店長に苦笑いを返すと、コーヒーをさっさと飲み干して店を出た。そして振り返る。
――店内は、幻の明るさに満ちていた。
その後、あまり流行っていない閑散とした店に入り、食事をしている最中に「うん」と大きく一つ頷いた。
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