地蔵磨き

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 とあるところに、とある三人の若者達がいた。  若者達は夢も生き甲斐も無く、日々をだらだらと過ごしいて、これではいけないと思いつつもそれを変えられずにいる事と、家の近くに汚らしい地蔵が立っている以外の共通点は無かったが、偶然にも同じ日にまったく同じ夢を見た。  夢の中では、見たことも無い老人が出てきてこう言った。 「お前の家の近くに古びた地蔵がたっているだろう? その地蔵を毎日、丹念に磨き続けたら、きっと幸福が訪れるだろう。いいか? 丹念に、だぞ。サボったり途中で諦めたら何にも起こらんぞよ」  言い終わると老人は消え、代わりに朝の光りがまぶたを照らした。  おかしい、と首を捻りながらも、三人は雑巾を持ってその地蔵の前まで行ったが、そのうちの一人は、 「なんて馬鹿な夢を見たんだ」  と言って地蔵を磨く事を止め、相変わらずの日々を過ごす事になる。  しかし他の二人は何を思ったのか、老人の言う通りにする。地蔵の立っている道は人通りも多く、若者を見て感心する人もいるが、どちらかと言うと嘲笑する人の方が多く、その恥ずかしさに耐えなくてはいけなかった。  不思議な事が二つある。  一つは、その日しっかりと地蔵を磨いた筈なのに、次の日には元の汚さに戻っている事だ。何年も磨いてないかのように汚れ、苔はむし、足元には犬のしょうべん、頭のてっぺんにはカラスの糞が乗っかっており、それらの汚れを落とすのには、かなり骨が折れた。  更に磨き始めた頃から、何故か身の回りに良くない事が起こり始めた。  仕事や友人関係がうまくいかないと言った事から、電車の遅延、信号で必ず赤になる、はたまた地蔵を磨いてる途中、頭に鳥の糞が命中、なんてことは二日に一回の頻度で起こった。  とは言え、その不思議な事のおかげで、「やはりこれは何かある」と、気は重くはあるが、何かの試練の様に感じられ、以前見た夢を信用出来るようになり、せっせと地蔵を磨きに精を出した。
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