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子供の頃、夜道を怖がっていた時期があった。
ただ怖いと言うわけではなく、誰かが隣にいるとき、――例えば親が隣にいるときには、つないでいる手の暖かさに安心感を感じ、友達や兄弟と一緒の場合は、「怖いね」と言い合っていたとしても、いつもと違う色彩の道を歩くことを楽しみを感じた。
しかし、周りに誰もいない黄昏すぎの帰り道などは、じわりじわりと広がっていく宵闇に心細さは膨らみ、余計なことを考えまいと歩みを速めたものだ。
もし家にたどり着く前に、空の色が濃紺色に塗りつぶされてしまったときには、心細さはどうしようもなく膨らみきっており、周囲の物陰から何か出てくるのではないかと、視線をあちこちにせわしなく動かしたり、ほんの少しの物音、風に揺れる木々の擦れ合う音にさえ怯えたりした。
そんな時は、「何でもないんだ」と強がりを言って自分を励ますけれど、結局は膨らみきった心細さに勝てず、泣きそうな顔で遮二無二急いで家に帰った事が何度もあった。
しかも、漸く家にたどり着いた時には、そのことの安心感よりもまず、親の小言や拳骨が飛んで来ることがしばしばだった。
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