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どれくらい歩いたのか分からないが、ふと、目の前に黒い物体が現れて横に流れていった。驚いてその方へ視線を向けると、それは夜の闇に溶け込んでしまいそうな色をした猫であった。猫は、先程と同じ猫であるかのように塀へ飛び上がり屋根へ飛び移り、天井まで駆け上がると、ちら、とこちらに白い目を光らせ、さっさと闇の中へと消えていった。
「何だ、猫か」
そう思ったと同時に大きな溜息を吐く。すると不思議なほどに身体から力が抜け、その場に尻餅をついた。いつしか両耳に響く不快な声も消えている。その事に驚いて振り返ると、今までの事が幻であったかのように光が戻っていた。そう言えば、自分の頭にも電灯の光が注いでいる事に気付く。ゆっくりと立ち上がり辺りを見渡すが、特に変わった所は見受けられなかった。
一体何がどうなっているのかは分からないがとにかく助かった事に変わりなく、もう一度大きな溜息を吐くと家路に着いた。
結局その後は何もなく、何度か月の無い夜道を歩いたが、この日のような事は起こらなかった。
ただ、いつだったか、近所に住んでいた黒猫を飼っている人が、どこかへ引っ越した事を買い物帰りらしいおばさん達の口から耳にした。
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