時雨

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9歳のとき、家に帰ると家族の誰もいなかった。父も母も妹も。 ポケットに入っていた10円玉で、自宅以外で唯一覚えていた祖母の家へ電話をかけた。 8年間、育ててくれた優しい祖母も、この春に他界した。もっと素直でいれば良かったと、後悔してももう遅い。祖母が自分に何かあったときの為に、俺に買っていてくれたマンション。6月に、そこへ越して来た。祖母の家は父の兄である叔父が相続した。 祖母の遺産とバイトで、今は生活している。幸いにも、学校は特待生だったからなんとかやっていけてる。 家族の行方は、未だにわからない。捜す気なども既に失せている。 学校行って、友達と馬鹿やって、バイトして、食って、寝る。 そんな毎日の繰り返しだ。 別段不満でもない。生き甲斐とか、張り合いとか、そんな事を考えなくても、日本は生きやすい。 革命やクーデターが起こる訳でもなく、事故や精神がイッた連中が事件を起こすぐらいだ。 行った事のない場所の事も、会った事のない芸能人の事も、ある程度知っている。 生きるなんて、そんなもんさ。平凡そのもの。 今日も街は、平和そのものだ。
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