◇序章◇

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玄関に出た勢いで靴を履き、 時間と格闘しながら部屋の外に出る。 涼しい秋風が僕の体を滑ってゆくが、僕自身はまるで真夏にいるような汗をかいている。 だが今は汗の事はなんだっていい。 俺の死活問題は、バイトに遅刻することだ。 慌てふためきながら鍵を閉めようとして僕はふと、足元に一枚の葉書が落ちているのに気付いた。 「全く…」 最近配達する人間が変わったのか 葉書がこうしてポストに入らず落ちていることが度々あった。 酷いときは足形スタンプのおまけがついている。 今度こんな事があったら 郵便局に文句を言わねばならない。 俺は一つデカイため息をついてその葉書を拾う。 ポストに投函しておこうとして その手がピタリと止まったのは その葉書に達筆な字で 『誕生日おめでとう!』と書かれてあったからだ。 そうか、今日は誕生日なのか。 もう誕生日を喜ぶ年でもないが 祝ってくれる人がいるのは いくつになっても嬉しいものだ。 その誕生日カードに書かれていたメッセージに、僕は思わず頬を弛めた。 別に、文字が達筆だから感心したわけでもないし、カードが届いたことに対する喜びのためではない。 いや、貰える事は勿論嬉しいのだけれど、そうじゃなくて。 ただ単純に、僕にとっては 何よりの嬉しいことがそこに書かれていたからだ。 ようやく、と言った所か。 .
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