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玄関に出た勢いで靴を履き、
時間と格闘しながら部屋の外に出る。
涼しい秋風が僕の体を滑ってゆくが、僕自身はまるで真夏にいるような汗をかいている。
だが今は汗の事はなんだっていい。
俺の死活問題は、バイトに遅刻することだ。
慌てふためきながら鍵を閉めようとして僕はふと、足元に一枚の葉書が落ちているのに気付いた。
「全く…」
最近配達する人間が変わったのか
葉書がこうしてポストに入らず落ちていることが度々あった。
酷いときは足形スタンプのおまけがついている。
今度こんな事があったら
郵便局に文句を言わねばならない。
俺は一つデカイため息をついてその葉書を拾う。
ポストに投函しておこうとして
その手がピタリと止まったのは
その葉書に達筆な字で
『誕生日おめでとう!』と書かれてあったからだ。
そうか、今日は誕生日なのか。
もう誕生日を喜ぶ年でもないが
祝ってくれる人がいるのは
いくつになっても嬉しいものだ。
その誕生日カードに書かれていたメッセージに、僕は思わず頬を弛めた。
別に、文字が達筆だから感心したわけでもないし、カードが届いたことに対する喜びのためではない。
いや、貰える事は勿論嬉しいのだけれど、そうじゃなくて。
ただ単純に、僕にとっては
何よりの嬉しいことがそこに書かれていたからだ。
ようやく、と言った所か。
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