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早くしてくれないだろうか。遊びに行く用事が入っているというのに。
その思いを察したのか父は、意を決した顔になる。
「楓は、好きな人はいるのかい?」
「ぶっ!?」
あまりに脈絡がなさ過ぎてのんでいるお茶を父目掛けて吐き出した。
「汚いよ、楓ちゃん」
「汚いも何も父さん、それを本気で言っているなら、私は父さんを殴りますよ?」
なまじ冗談でもなく、楓は父を睨んだ。確かに父のした質問は二十歳になった娘を持つ父親としてはさほどおかしくないのかもしれない。だがそれは普通の娘を持った父親の話であって、楓ら親子には当て嵌まらない。父が本気でそれを口走っているのだとしたら、今の楓を全否定することになるだろう。
楓の睨みが効いたのか、父はおろおろと泣きそうな顔になった。
「でもだよ、楓。ほんのちょっとでも良いと思った人はないのかい?」
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