序章

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ベッドはやたらふかふかしてて寝付きが悪そうだし、部屋もいやに広いしはっきり言って居心地が悪い。無駄な空間には無駄一つなく並べられた家具。これは実家から送りつけられてきたものだというのが一目瞭然だった。せめてもの餞別って訳なのだろう。しかし、洋風の間取り、洋風のベッドにこれほど不釣り合いな箪笥もない。しかも最高級の桐の箪笥だ。 はぁ、とため息を吐いたのはその部屋にいる女だ。少し釣り上がった切れ長の目は可愛いという印象より綺麗という印象である。 だが、どちらかというと中性的な魅力のある女だった。眉間に深い皺を寄せて仕方なくベッドに座り込んだ顔は浮かない。 もともと乗り気で来た訳ではない。 「お気に召さない?」 後ろからかかった声に振り向きながら、彼女は立ち上がった。そこには、バスローブ姿の美丈夫の姿が見えた。 「そんなことありません」 極上の笑顔の裏側が引き釣っているのはほかでもない。彼が、女のため息の原因だからだ。 「それはよかった。あなたのご実家は、畳のほうが慣れていると思いましたが、何より急だったもので」 男もまたその端正な顔を綻ばせながら、女に近づく。 「何の用です?」
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