序章

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これほどまでに先ほどからの恐怖が融解されていくのは、彼の温もりが絶対的なものであるからに違いない。 「お願いがあるんだ、……聞いてくれる?」 手の力を込めて腕を握ると、なにも言っていないのに彼は理解してくれた。 「うん……いい子だね。今はわからなくてもいい、きっとわかる日が来るから、その時は、ちゃんと受け止めるんだよ?でもこれだけは約束して……、俺を忘れて……、そして幸せになって」 彼の言葉は本当に理解ができなかった。優しい声なのに普段使わない俺なんて言葉を使う。 どうして?なぜ、忘れなければならないの? その答えを一生懸命探して、だけどその答えは闇の中に消えた。 彼から伝う温かい雨が、答えをうやむやにしたのだ。
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