きもち

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あたしは初めてのことにビックリして,何も出来ずにただそこから見える景色を見てた。 誰かに抱きしめられることがこんなにも暖かくて幸せな気持ちになれるなんて,知らなかった。 ただただ…幸せにひたっていた。 神野『俺……ちょっと前からあきらちゃんのこと,気になってたんだ。でも…俺はまだ研修医だから勉強しなくちゃならないし,それにあきらちゃんは患者さんだから…余計に,ね』 あたしを強く抱き締めながら苦しそうな声で言った。 今の神野さんの表情は見なくてもわかる気がする。 きっと…辛そうに眉間にシワをよせながら呟いているんだろう。 神野『でも…あきらちゃんから気持ち伝えられてちょっと迷った。あきらちゃんの気持ちを受け入れてずっと側にいることを選ぶか,断って医者としてあきらちゃんの側にいるか…。そのときの俺は後者を選んでた。』 神野さんは一息ついて,あたしから離れた。 近くの椅子にすわり,あたしと目を合わせた。 そらせないくらいまっすぐな視線だった。 神野『だけどさ』 神野さんはちょっと笑って言った。 神野『あきらちゃんと一緒にいると,気持ち伝えたくなっちゃってね。だから…来週から担当変わってもらうはずだったんだ』 あきら『えっ………』 神野『でも,やめた。ずっとあきらちゃんの側にいるから。医者としても…もう一人の俺としても』 そう言って,神野さんは笑った。 今までで一番いい笑顔に見えた。 つられてあたしも笑った。 二人でにこにこしながらただ一緒にいた。 幸せだった。
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