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『部屋を変えます』
治療室が慌ただしくなり、男性患者が入ってくるやいなや医者が言った。
『②階の小児科病棟に移動しますので』
医者を無視し
…父に
出よ
と声を掛け部屋をでる。
『後で呼びますから少しここでお待ちください』
沙耶香を残し、皆で受付前のベンチに座る。
皆やはり無言で会話もない。
『何か飲むか?』
と沈黙をやぶった母。
そぅ言えば…仕事終わってから何も口にしてない。
時間もすでに日が変わってる。
食べ物はおろか、水分すら喉を通る気がしなくて
「俺はえぇ~は」
と断る。
結局…皆…そこから動こうとせず時間だけが過ぎた…
程なくして…
治療室から泣き声が聞こえてくる。
『…何やろ…』
妻が治療室の方を向き
『沙耶香…大丈夫かな……』
と心細く言う。
直後…
泣き声が何かを呼び叫ぶ声に変わった。
『何かあったんやは…』
母が立ち上がり治療室の方を見る。
丁度その時、先程の受付の男性が来た。
『娘さん…よくなるといぃですね…』
そぅ言われ俺も思わず
「さっきはすみませんでした…怒鳴ってしまって…」
と謝罪する。
『誰でも我が子の為なら必死になるのが当然です。気にせんといて下さい』
そう言って少し笑った。
「あの……何かあったんですか?治療室…」
気になったので聞くと
『亡くなられたんです…さっき運ばれてきた男性が。まだ40代らしぃですけど…』
再び無言。
聞くんやなかった
ここまで人の死に敏感になった時が無かったらから…。
見ず知らずの人間の死が更に追い込みをかけてきた…。
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