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義父と少し喋っていると先輩のえ~ちゃんが来た。
いつもなら
『おい!飲みに行くぞ!!』
と
勢いいぃえ~ちゃん
この日は掛けられる言葉もなく沙耶香のもとへ歩いて行った。
『ありがとぉ…』
え~ちゃんに初めて声を掛ける。
何も言わず沙耶香を見たまま頷く先輩…
数日後…違う先輩が
『ひろみ君が亡くなった時よりもキツかった…って泣いとったぞアイツ…。沙耶香ちゃんもやけど、お前がホンマ可哀想やったって……』
と言っていた。
え~ちゃんが帰った後…
『今誰か玄関にいてなかったか?』
と母が聞いてきた。
え~ちゃん…何か忘れ物でもしたんか?
と思い玄関に出る。
暗がりなので玄関を出て辺りを見回す。
気配がないから家に入ろうとすると…
郵便受けに茶封が筒挟んであった。
差出人の名前は書いてない…
『誰か来はったんか?』
と玄関に出てきた母に
『いや…誰も。けど手紙が置いてあった…』
そう言い手紙を見せる。
『手紙?誰やろ…』
中に入り中身を見た…
そこには
【会わずに手紙だけ残して帰ります。
今皆に会う事…僕には辛すぎて無理です。
初めて僕が沙耶香ちゃんを見に行った日、君と奥さんは暖かく迎えてくれました。
君がアルバムを取りに②階へ行き、
僕の為にコーヒーを入れてあげると言った奥さんが台所に行き、
部屋には僕と沙耶香ちゃんが②人きりとなりました。
何も言わずに沙耶香ちゃんに顔を近付けると
大きな目を見開き
スー
スー
と息をし僕の顔を一生懸命見つめていました。
残念ながら、僕と沙耶香ちゃんとの思い出はこれだけです。
でも、これだけの思い出でも僕にとっては忘れる事のない大切な思い出です。
会わずに帰る事
お許し下さい……
大石】
大石先生からの手紙やった。
②ヶ月程前…
アパートに来たにも関わらず、沙耶香には一目もくれずに説教ばかりして早々に帰った大石先生。
俺も妻も知らない②人の思い出が綴ってあった…
何回もその手紙を読み返し
何回もその手紙で涙する。
ありがとぉ…
先生。
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