飛行機落ちろ

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「飛行機おちろ」 飛行機に乗ったことがあるだろうか? じゃあ、自分の乗った飛行機が落ちればいいのに、と思ったことはあるだろうか? 僕は、ある。 意外な事に、当時僕の遊び仲間だった日本人の多くは同じ事を考えた事があるらしい。 「旅行してみたい国」 「いつか行ってみたい国」 どっかの雑誌でやってたそんなランキングの、常に上位にある国、インド。 うん、いいよねインド。 僕も昔、すげー旅行してみたかった。 当時ハタチを過ぎたばかりの僕にとって「若かった過去を思い出して苦笑いする機会」ってのはなかなか無かったけど、これに関してはまさしく数少ない「苦笑いドコロ」だった。 そんな苦笑いを浮かべながら、インド南西部の都市マドラスに向かう飛行機の狭いエコノミークラスに座る。 マドラスは正式には「チェンナイ」と呼ばれるインド4大都市のひとつ。 現地人の感覚だと広い範囲を呼ぶときは「チェンナイ」、都市として栄えてる中心部を指すときは旧名称の「マドラス」を使う。 東京で言うと同じ東京都民なのに八王子に住んでる人が23区内に行くとき「東京に行く」と言ってしまうようなものかな?と、妙に日本通な現地の友人が教えてくれた。そのマドラスの背骨として南北に走る大きな国道「マウントロード」こと「アンナサライ」、そのアンナサライの南端、ギンディという土地に僕の帰る家があった。 帰る家。 うん、帰る家。 当時、一年のほとんどをインドに住んで、時々日本に「行く」生活を送ってた僕にとって、インドへは「行く」のではなく「帰る」感覚だった。 「旅行してみたい国」 うん、旅行で行くのはすごくいいところだよ、でも生活するにはけっこうハードだよインド。 「行ってみたい国」 うん、行くのはすごくいいけど、帰るとなるとけっこう凹むよインド。 途中乗り換えの、成田なんかよりよっぽどキレイで近代的、言ってしまえば近未来的なまでのKL(クアラルンプール=マレーシアの首都)の空港から飛行機が離陸する瞬間なんて言葉では言い尽くせない気分。 成田~KLのときと違ってKL~マドラスの飛行機には7割がインド人、3割マレーシア人含む外国人で、僕以外の日本人に会った事はない。 多分、日本語で周りの人間のことを日本語で「ハゲ」だの「デブ」だの小声で毒づいても誰も気がつかないんだろうな、とかそんなことを想像しながらなんとか溜飲を下げる。
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