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約束
上着を椅子にかけ、俺は腰掛ける。
窓から夕日が差し込んでおり、オレンジ色に染まった休憩室には誰もいない。
「くそ……」
ボソリと呟いた声は、誰に聞こえるわけでも無く、ただただ掻き消える。
今日は八時まで間違いない残業を前にして珈琲を飲みに来たのだが、まさか故障中とは思いもしなかった。日頃の行いは良いつもりだが、どうもうまく反映してはいないようだ。
やれやれと、俺は上着の内ポケットを探り、タバコを取り出した。
珈琲が飲めなかった今、癒してくれるのは、コイツだけだろう。
しかしよく見ると、一本も入っていない……。
そう、今俺は全てに見放されたのだ、神も仏も無い。空箱をゴミ箱に放り投げ、外に珈琲とタバコを買いに行こうとすると、目の前のテーブルにタバコらしきものが置いてあるのに気付いた。
どうせ空だろうと思って手にとって見ると、それには一本だけ残っていた。
今度こそ日頃の行いの賜物だと感謝する。
それは『To the past』と書いてあった。
聞いたことの無い銘柄だったが、ありがたくいただく事にした。昔から花泥棒は罪にならないって言うし、タバコも草だから仲間だろう、と自分でも、訳のわからない理屈を思いながら火を付けた。
部屋に紫煙が立ち昇る……。
「うまいっ」と思った瞬間、俺の目の前は、白い白い光に包まれていった。
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