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「遼?具合どう?」
そんな黒い霧など見えるはずがない瑠璃葉ちゃんは、難なく部屋へと入る。俺も意を決して後に続いた。
「…誰かいるの?」
瑠璃葉ちゃんが近付いたベッドに横たわる少女。
頬は痩せこけて、目の下のクマはまるで痣のようになっている。
生気を感じない視線を緩く俺に向け、口を微かに動かした。
この子が…佐嶋遼…。
ふと、ベッド脇にある本棚へと目をやると、そこには何個か写真立てがあった。
その中の一つ。瑠璃葉ちゃんと仲良く写っている、ショートが似合う少女…今とは全く外見の異なる佐嶋遼だろう。
「遼、もう大丈夫だよ。この人はね、鈴生心霊相談所の人なんだよ」
「すず…し、んれい…?」
「遼を助けてくれるの。『ヨウコさん』から遼を守ってくれるんだよ」
瑠璃葉ちゃんが佐嶋遼の手を握り、懸命に明るく振る舞う。
佐嶋遼は瑠璃葉ちゃんの言葉を聞き、再度俺を見た。
その瞳には、僅かに光りが感じられる。
「ホント…に?」
俺は佐嶋遼に近付き、首にかけてあった数珠を手に握らせる。
「大丈夫。俺が出来るのは、こうして御守りを貸してあげるくらいだけど…うちの相談所の人間は、絶対に君を守ってあげられる。だから、気を強く持って」
気が弱くなると、それに霊魂は反応して寄ってくる。
そして霊魂は更に人間を弱くさせ、悪い方向へと導いてしまう。
それは最悪の場合、『自殺』や『殺人』に繋がったりするんだ。
この家を覆う黒いモヤ。これは佐嶋遼自身が、『ヨウコさんに殺される』と思い詰めた気持ちが霊魂を呼び集めた結果。
家族にまで悪影響が出ている今となっては、稚鈴の力が籠っている数珠とはいえ、きっと凌ぎきれない。
それでも、ないよりはマシだろう。これ以上の霊魂も寄せ付けないし、この家を覆うモヤの成長も止められる。
あとは、佐嶋遼の気力の問題なんだ。
「君が強い気持ちでいなかったら、悪い方向にしかいかない。俺たちがついてるから、心配しないで立ち上がってよ。君を心配して不安ながらもうちの相談所に来た、瑠璃葉ちゃんの為にも」
「鬼灯さん…」
霊に憑かれて嫌な思いをしてる気持ちは、誰よりも俺が分かっているから。
これ以上、悪い方向にだけはいかないでほしい。
佐嶋遼の目から涙が溢れる。涙に濡れた瞳で、瑠璃葉ちゃんを見た。
「あ、りがと…瑠璃葉」
「は…遼…ッ」
その言葉に、瑠璃葉ちゃんも泣き崩れて、佐嶋遼の手に額を擦る。
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