975人が本棚に入れています
本棚に追加
/320ページ
いつもと同じように学校での授業が終わり、黙々と帰る準備をする。
『広く浅く』の人付き合いをモットーにしてきた俺は、特別仲の良い友人はいない。首や手首に数珠をしている人間は、奇妙変人に見られても仕方ないので、特に寄ってくる人間もいない。
寂しい人間だと思われるかも知れないが、自分はこれで充実なのだ。
何故なら、大抵の人間には霊が憑いて見えるから…。
そっちばかりが気になって話どころじゃない。だから、言うなれば俺に話し掛けることも極力避けてほしかったりする。
さて、帰るか。と鞄を肩にかけた時、携帯のバイブがポケットに響く。
着信とメールによってバイブの種類を変えてある俺は、それがメールだと即座に判断出来た。
パチンッと携帯を開いてメール画面を見る。
《今すぐ相談所に来い》
こんな一言を書いてあるメールの差出人に、俺はガックリと肩を落とす。
またか…。俺の中で諦めている事柄ではあるにせよ、気持ちの上での落胆は拭えない。
俺は携帯を閉じてポケットに入れつつ、周りに気付かれないように溜め息をつく。
そして、行き慣れた場所へと重い足取りで向かった。
「ちぁーっす…」
やる気のない態度を全面に出しながら、相談所のドアを開ける。
「ほっおずっきちゃーん♪!!」
「ぐふぅっ!!?」
開けたと同時に俺の身体は、とてつもない衝撃に見舞われる。
基本はタックルのような全体重をかけた突進なのだが、それに首回りを腕によって有り得ない力で締め付けられるという窒息攻撃も加わった殺傷能力は高い。
「それくらいにしておけ。鬼灯が死ぬぞ」
蒼白くなっていく俺に「あら?」と言い、パッと腕を離す。急に解放された俺の身体は、床に崩れ落ちた。
「ごめんごめ~ん♪嬉しくて手加減忘れてた♪」
「しょ…ショコラ、さん…帰ってたんですね…」
床に這いつくばった体勢で、懸命に声を絞り出す。
「うんッ♪ただーいま、鬼灯ちゃん♪」
ウェーブがかかった腰までの綺麗な栗色の髪と大きい瞳。俺より少し高い身長と、それに見合うだけの充分な手足の長さと細さ。
すれ違う人は、男女問わず振り返ってしまうほどの美貌を持つその人の名は、如月ショコラ。れっきとした鈴生心霊相談所のスタッフの一人である。
「今回の任務は長引いちゃったじゃない?だからすっごく鬼灯ちゃんに会いたかったのよ♪?」
最初のコメントを投稿しよう!