『白樺林』Ⅰ

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「……ショコラさんに言われても嬉しくないです」 「ひっど~い!!私にこんなこと言われるの鬼灯ちゃんだけなのよ~!?」 「こんだけ綺麗な人にそう言ってもらえるのは大変光栄なんですが……それはショコラさんが『女』だったらの話でしょーがッ!!!!」 「それは言わないお約束~♪」 ふざけた名前を持つこの人は、どんな女より綺麗で色気もある。が、しかし、正真正銘『男性』なのだ。 年齢や経歴など、全てが謎で出来ているこの『究極オカマ』は、何故か俺を気に入っていて、自称『万事の秘書』という位置に存在する。 類い稀ない霊能力は稚鈴に匹敵し、並外れた怪力の持ち主でもある彼女(と言っていいものか…)は、主に諜報的役割を担っていて、たまに仕事内容によっては遠征もする(これを鈴生心霊相談所用語にすると『出張除霊』らしい)。 「今回はどこ行ってたんでしたっけ?」 「熊本!!大変だったわよ~?倒産したホテルの除霊だったんだけど、規模デカいし数は多いしで散々」 「うわぁ…相変わらず難儀な…」 「まぁ私一人じゃ無理だったわよ。『あの子』よく働くから」 「あ、そういえば『ココア』どこに…」 「情報収集♪そろそろ帰ってくるんじゃないかしら?」 そう話していると、稚鈴が身体をピクッと揺らす。 「帰ってきたみたいだな」 稚鈴はドアへと近付き、ドア枠に貼ってある御札に人差し指をピッと当てる。 「ココア、今なら入っていいぞ」 稚鈴がドアに向かい言うと、何かがドアをすり抜け、俺に向かって小走りで軽くタックルをした。 「ほーずき兄ちゃん♪!!」 俺の腰までくらいの身長の少女で、前髪を上で一つに束ねていて、それはまるで尻尾のようにピョンピョンと動く。大きな瞳は俺を見上げながら、色素の薄い肌色で満面の笑みを浮かべる。 「おかえり、ココア」 「へへ♪ただいまぁ♪」 少女の幼い顔がはにかむように笑う。俺も微笑み返した。 歳は5歳くらいだろうか。まだ小学校に入るか入らないかという幼い顔立ちと身長で、いつも赤いワンピースと赤いポンチョを着ている。 少女の名前はココア。ショコラさんが除霊依頼を受けて『保護』した少女幽霊で、名前も歳も全ての記憶が死んだ際に消えてしまったのだという。 『ココア』の名付け親はショコラさんで、ショコラさんと行動を共にし、今では仕事も手伝う相談所の一員だ。 「ココア、二人にも挨拶なさいな」
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