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心配そうな表情でこちらを見ている。
霊感のない丸居さんからして見れば、今までの俺たちのやり取りは、気が狂ったように見えただろう。
いきなり俺が真っ青な顔で腰を抜かし、稚鈴は稚鈴で何かの儀式をしているようにも見えたんじゃないだろうか。
稚鈴の数珠は特殊で、霊感のない人間には見えないのだ。
「今夜、また来るぞ」
「え、今夜!!?」
「私はそのために来てるんだ。観光なのではない」
「そうだけど…夜に今の女見たくないんだけど…」
「霊魂はみんな綺麗な姿のままでいるものじゃないことくらい、お前も知ってるだろう」
体の一部がないもの、肌が爛れたもの…確かに、綺麗な人間の姿でいるものばかりを見てきたわけではない。
今度の女は、まだ人の姿だっただけマシかも知れないが…。
「鬼灯、万事にメールしろ。10年間で女の行方不明者がここ一帯でいるか調べろと」
車に歩き戻りながら稚鈴が言う。
「え?あ、あぁ…」
「それから…」
突然立ち止まり、振り返る。俺は、何を言われるかと身構えた。
「知ってるか?摩周湖付近にある土産屋に、『霧の缶詰』が売ってるらしいぞ」
至って真面目にそんなことを言う稚鈴に拍子抜けし、身構えたことが恥ずかしくなり、ワナワナと怒りが込み上げる。
「そんなの知るかッ!!!!」
こんな時でも、真剣過ぎない稚鈴には、余裕が感じられる。
あんなことがあった後の俺には、そんな余裕があるはずがない。
稚鈴のこんな姿勢に、俺は内心安堵した。
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