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俺は鞄を持って、部屋の中央付近に置かれた来客用ソファに腰掛ける。
「今日は仕事ないんですか?暇そうですけど」
「毎日仕事あったら、この世は大変なことになってるんじゃないかね?」
「…それもそうですね」
「しかし今日は来客予定がある。「相談したいことがある」と電話が入っているんだ」
「ふーん…」
「手伝うか?『餌食』として」
人を馬鹿にしたようなフッとした笑いと『餌食』の言葉に俺はカチンときて、片眉をピクリとあげる。
「少なくとも俺はお前より年上なんだけどな…『餌食』なんて言うなよっ!!」
「鬼灯がいるとそれだけで『獲物』は寄ってくるからな。わざわざ周りを札で包囲して結界張って逃がさないようにしなくても、そこに鬼灯がいると鬼灯だけに結界を張れば済むことだ」
「やめてくれ…お前は人使いが荒すぎるんだよ」
その時、ドアをノックする音が事務所に響く。三人の視線は一斉にドアへと向く。
俺は慌てて鞄を持ってソファから立ち上がる。
万事さんが稚鈴に目で合図を出し、稚鈴がそれに頷く。稚鈴がドアに近付き、ドアを開けた。
「あの…鈴生心霊相談所、ですか?」
始めに出てきたのが制服を着た華奢な少女とあって、相手はかなり戸惑った様子だ。
「はい、こちらであってますよ。どうぞ、こちらへ」
ニッコリと愛想よく微笑み、稚鈴は中へと招き入れる。
出たよ…必殺・猫かぶり。
稚鈴は客に対しては恐ろしく愛想がいい。俺は本人から見えないようにウェッと舌を出した。
「あ…失礼します」
入ってきたのは近くの高校の制服を着た女生徒だ。
真新しい感じの制服は一年生だと思う。今時にしては珍しい、黒くて肩下まである綺麗な髪。ハーフアップにしてクリップで留めていて、メイクもかなりナチュラルだ。
中にいるもう一人の制服を身に着けた俺に頭を少し下げる。不安気に体を縮こまらせ、辺りをキョロキョロと見ていて落ち着かない。
「どうも。こちらにお座りください」
万事さんが煙草を灰皿に擦り消して、椅子から立ち上がりソファへと座る。
オドオドしながらも女生徒は小さく頭を下げて向かいのソファへとゆっくり腰をおろす。
「私が鈴生心霊相談所の所長、万事です」
「えっと…朝岡 瑠璃葉(あさおか るりは)です。三葉学園(さんようがくえん)の一年です」
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